1つの反応を2つの電極表面で同時に行う:エネルギーを最大限に活かした有機電解合成プロセスを開発

1つの反応を2つの電極表面で同時に行う:
エネルギーを最大限に活かした有機電解合成プロセスを開発

 国立大学法人bet36体育在线_bet36体育投注-官网网站@大学院グローバルイノベーション研究院の堀口元規助教、同大学院農学研究院応用生命化学部門の岡田洋平准教授らは、1つの反応を2つの電極それぞれで同時に進行させることができる、新たな有機電解合成プロセスの開発に成功しました。投入した電気エネルギーを最大限に有効活用して物質生産を行うことが可能となり、持続可能なものづくりの実現に貢献できます。

本研究成果は、Journal of Environmental Chemical Engineering誌に3月2日にWEBで公開されました。
URL: https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2213343722003633

現状
 有機電解合成とは、原料溶液中にセットした2つの電極間に電圧をかけ、電極表面での電子移動を制御することで有機化合物を合成する手法のことです。通常、有機化合物を合成するためには、原料のほかに、反応を進行させるための特別な試薬や触媒を使います。また、熱エネルギーを加えて高温条件にすることもあります。有機電解合成では、電子が試薬や触媒として振る舞うため試薬や触媒の使用量を大幅に削減できるほか、1~2 V程度の電圧をかけるだけでも常温で反応を進行させることが可能です。このように有機電解合成には多くの利点があり、研究が盛んに行われています。
 有機電解合成を含めた電気化学反応は、片方の電極(アノード)で酸化反応が、もう一方の電極(カソード)で還元反応が起きます (図1(a))。水の電気分解を例にすると、アノードでは酸素発生が、カソードでは水素発生が起こります。ところが有機電解合成においては、アノードまたはカソードのどちらか一方の電極からのみ物質生産が行われ、もう一方の電極での電子移動が無駄になっている例がほとんどです (図1(b))。投入した電気エネルギーを最大限に活かすためには、2枚の電極両方から物質生産を行うことが望まれます。このような手法は両極合成と呼ばれていますが、反応場の設計が非常に難しく、研究例が少ないのが現状です。

図1 (a) 電気化学反応の仕組みと、(b) 電解合成による物質生産の概略図。

研究体制
 本研究は、bet36体育在线_bet36体育投注-官网网站@の堀口元規 大学院グローバルイノベーション研究院助教、神谷秀博 大学院工学研究院教授、千葉一裕 学長、岡田洋平 大学院農学研究院准教授の研究チームで実施しました。

研究成果
 本研究グループは、有機化学における基本的な反応であるアルコールからアルデヒドへの酸化反応を、アノードとカソードの双方で同時に行うことに挑戦しました。そのためには、酸化はアノードで直接的に行えば良いですが、本来還元が起こるカソードで酸化反応を行う必要が生じます。そこで、空気中に存在する酸素に着目しました。酸素を還元すると、高い酸化力を持つ活性酸素種を生み出すことができます。これを踏まえて、「カソードで酸素を還元して活性酸素種を発生させて、その活性酸素種によってアルコールを酸化する」という、酸素によって仲介される間接的なカソード酸化プロセスの着想に至りました。
 酸素濃度を高めた溶媒中に原料のアルコールを加え、アノードではアルコールの直接酸化が、カソードでは酸素還元が進行するようにそれぞれの電極の電位を設定して電解合成を行いました。その結果、目的のアルデヒドだけを高い選択率で、かつ高い収率(最大94%)で得ることに成功しました。特筆すべきは本反応のエネルギー効率です。電解合成において、流した電流のうち目的の物質生産に使われた電流の割合を電流効率で表します。電流効率が100%であれば、流れた電流の全てが物質生産に使われたことになりますが、実際は副反応等が起こるため100%を下回ることがほとんどです。ところが、我々が開発した両極合成プロセスでは、最大146%の電流効率を実現しました。これは、単一の反応をアノードとカソードの2か所で同時に進行させることができたためです(図2)。直接酸化時に原料からアノードへ移動した電子がカソードへと渡り、カソードで活性酸素種の発生に利用されており、電子が有効活用されています。電気エネルギーを最大限に有効活用した化学合成プロセスであると言えます。

図2 開発した両極合成プロセスにおいて想定される反応機構と合成に成功したアルデヒドの例。

今後の展開
 電気エネルギーを最大限に活かすことができる新たな有機電解合成プロセスを構築できました。この手法を様々な化学合成プロセスに利用していくことで、持続可能なものづくりの実現が期待されます。

◆研究に関する問い合わせ◆
bet36体育在线_bet36体育投注-官网网站@大学院農学研究院
応用生命化学部門 准教授
岡田 洋平(おかだ ようへい)
TEL/FAX:042-367-5667
E-mail:yokada(ここに@を入れてください)cc.jskrtf.com

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