赤外線を分離する?熱輻射に隠された偏光情報を可視化するメタレンズを実現

赤外線を分離する?
熱輻射に隠された偏光情報を可視化するメタレンズを実現

 国立大学法人bet36体育在线_bet36体育投注-官网网站@大学院の石塚乃衣氏(2023年3月博士前期課程修了)、株式会社タムロン R&D技術センターの李潔博士、冨士航氏、bet36体育在线_bet36体育投注-官网网站@大学院の池沢聡特任助教(現早稲田大学研究院講師)、岩見健太郎准教授は、メタサーフェス(注1)を利用して、熱放射に対応する波長の赤外線を制御し、偏光方向ごとに分離して結像させるメタレンズ(注2)を製作することに成功しました。この成果は無照明での人体や車両検出、熱マネジメント、計測等に貢献することが期待されます。

本研究成果は、Optica (旧米国光学会OSA) 発行のOptics Express(IF=3.833, 電子版2023年6月28日付)に掲載されました。
論文タイトル: Linear polarization-separating metalens at long-wavelength infrared
DOI: https://doi.org/10.1364/OE.492918

研究背景
 物体を加熱すると光りますが、常温付近の物体からも目には見えない赤外線が放射されています。とくに波長7-14μmの長波長赤外線(注3)は、サーモグラフィに利用されています。発光を見ているので照明光が不要で、夜間の人体検出などに利用されています。また、光が持っている偏光情報を解析すると、滑らかな表面を検知することができます。このことから、長波長赤外線で偏光情報を可視化することができれば、夜間無照明での人体検知や車両検知への応用が期待されます。通常、このような測定には、イメージセンサの各画素に方向の異なる偏光子を配置した偏光イメージセンサが用いられます。しかし、偏光イメージセンサは特別な製作プロセスを必要とするため高コストになることと、偏光子が入射光の半分を吸収?反射してしまい効率が下がることが問題でした。これは、イメージセンサの高感度化が求められる長波長赤外線において特に大きな課題でした。これに対し本研究グループではメタレンズを利用して、偏光を吸収するのではなく分離することで長波長赤外線においても高効率な検出が、既存のレンズを交換するだけで簡単に実現できるのではないかと着想しました。メタレンズ?メタサーフェス研究に実績のあるbet36体育在线_bet36体育投注-官网网站@岩見准教授のグループ(bet36体育在线_bet36体育投注-官网网站@プレスリリース2020年7月8日、同年11月10日など)と赤外イメージングに実績のある株式会社タムロンがタッグを組んで研究に取り組みました。

研究体制
 本研究は、国立大学法人bet36体育在线_bet36体育投注-官网网站@大学院工学府機械システム工学専攻の石塚乃衣氏(2023年3月博士前期課程修了)、株式会社タムロン R&D技術センターの李潔博士、冨士航氏、bet36体育在线_bet36体育投注-官网网站@同専攻の池沢聡特任助教(現早稲田大学研究院講師)、bet36体育在线_bet36体育投注-官网网站@大学院工学研究院先端機械システム部門の岩見健太郎准教授により行われました。また、本研究の一部は科学技術振興機構(JST)研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP) トライアウト(JPMJTM20MK)および日本学術振興会 科学研究費補助金(21H01781, 22K04894)の支援により行われました。本研究の試料作成には、文部科学省 マテリアル先端リサーチインフラのネットワークを通じ、東京大学微細加工拠点の共用設備を利用させていただきました。また、解析は、東京工業大学のスーパーコンピュータTSUBAME 3.0を利用して行われました。

研究成果
 今回、単結晶シリコン基板上に、長方形断面を有する柱構造をメタアトム(注4)として数千万本配置した偏光分離メタレンズを設計?製作しました。これは図1のように、直交する2つの方向の偏光成分を、それぞれ別の場所に結像させることができます。東京工業大学のスーパーコンピュータTSUBAME3.0上での電磁場解析(COMSOL Multiphysics)によって、図2のように設計通りの動作ができることを確認しました。東京大学微細加工拠点の電子線描画装置、反応性イオンエッチング装置を用いてこのレンズを実際に製作し(図3)、はんだごてや右手(図4)のような対象を2つに分離して結像することを確認しました。また、電車のおもちゃ(図5)に長波長赤外線を照射すると、窓部分において偏光方向によって異なる反射率が得られることを可視化しました。

今後の展開
 今回のメタレンズは波長10μm(周波数約30テラヘルツ、温度約27℃に対応)で設計されたものですが、本研究成果はシリコン柱の導波路効果に基づいており、非共鳴型であるため、複数の波長に対応させることを期待しています。熱輻射の持つブロードな波長帯域を広くカバーするレンズやカメラの実現によって、熱輻射の制御やセンシングへの応用が期待されます。

用語解説
注1 メタサーフェス:光(電磁波)の波長に比べて小さいサイズの構造を配列することで、自然界には存在しない屈折率や光機能を実現できる機能性表面。「メタ」は「高次な-」「超-」を意味する接頭語。

注2 メタレンズ:メタサーフェスの考え方に基づいて作られた、誘電体導波路を配列したレンズ。偏光分離機能など、従来のレンズでは実現できなかった機能を持つことができる。

注3 長波長赤外線:本論文では、波長7-14μmの赤外線のことで、おおよそ常温物質からの熱輻射に対応する波長の電磁波を指す。分野によって、中赤外線に分類されたり、遠赤外線に分類されたりする。

注4 メタアトム:メタサーフェスを構成する、光(電磁波)の波長に比べて小さいサイズの構造のこと。今回は、単結晶シリコン製の角柱をメタアトムとして用いた。

図1 偏光分離メタレンズの概念図
図2 スーパーコンピュータを利用したシミュレーション結果
図3 製作結果 (a) メタレンズ写真 (b) 斜めからの電子顕微鏡写真 (c) メタレンズ断面の電子顕微鏡写真 (d) カメラ搭載用治具とメタレンズ
図4 メタレンズの撮像結果。(a) はんだごて と (b) 右手の偏光分離画像
図5 (a) メタレンズで撮像した偏光分離画像による偏光情報の可視化。電車模型の窓部に反射率の違いが見える。 (b)実験の様子。ホットプレートからの赤外線が模型で反射し、メタレンズを搭載したカメラで観察している。

◆研究に関する問い合わせ◆

bet36体育在线_bet36体育投注-官网网站@大学院工学研究院先端機械システム部門
准教授  岩見 健太郎
TEL/FAX:042-388-7658
E-mail:k_iwami(ここに@を入れてください)cc.jskrtf.com

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