ポータブルグラフェンセンサを利用したカドミウム検出~事故?災害現場での重金属検出に向けて~

ポータブルグラフェンセンサを利用したカドミウム検出
~事故?災害現場での重金属検出に向けて~

 国立大学法人bet36体育在线_bet36体育投注-官网网站@大学院工学府物理システム工学専攻大学院生の吉井智哉、工学部生体医用システム工学科の西胤ふう香、木川田和希、工学研究院先端物理工学部門の前橋兼三教授、生田昂助教は、半導体微細化技術によって小型化したグラフェンセンサと自作のポータブル検出器を利用して重金属の一種として知られるカドミウム化合物の溶液中での検出に成功しました。この成果により、事故や災害などで漏出した重金属イオンの早期検出が可能になります。将来的には、カドミウム以外の重金属イオンを包括的に検出できる小型重金属センサの開発を目指します。

本研究成果は、Sensors誌に1月30日にWEB上で掲載されました。
論文名:Identification of Cadmium Compounds in a Solution using Graphene-based Sensor Array
URL:https://doi.org/10.3390/s23031519
Citation:Tomoya Yoshii et al. Sensors, (2023), 23(3), 1519

現状
 重金属化合物は、太陽電池や光センサ等多岐に渡る分野で利用されていますが、生物に対し高い毒性を有しており、漏出した際に早期検出できる技術の確立が求められています。重金属の中でもカドミウム化合物は歴史的にも有名な公害の一つであるイタイイタイ病を引き起こすなど、高い生体毒性が知られています。従来、これら重金属の検出には専門機関による効果で大型分析装置を利用しなければなりませんでした。そのため、専門機関にすぐに持ち込むことが難しい事故や災害現場、離島などでは早期の重金属検出が難しいという課題がありました。
 そこで本研究では、当研究室で開発してきたグラフェンセンサを社会実装する上で重要な小型マルチチャネル電流検出器を自作し、持ち運び可能なセンサ系を利用した溶液中でのカドミウム化合物の検出を目指しました。

研究体制
 本研究は、bet36体育在线_bet36体育投注-官网网站@大学院工学府物理システム工学専攻博士前期課程学生の吉井智哉、生体医用システム工学科3年の西胤ふう香、木川田和希、工学研究院先端物理工学部門の前橋兼三教授、生田昂助教によって実施されました。
 本研究はJSPS 科研費 ( JP20H02159, JP21H01336, JP21K18714)の助成を受けて実施されました。

研究成果
 まず本研究では、グラフェンセンサの社会実装時に重要になる小型のマルチチャネル電流検出器の作製を行いました(図1左)。従来は、プローバーや半導体パラメータアナライザ等、それぞれ数百万円以上する比較的大型(数kg程度)の装置を利用して2 チャネル(ch)程度の計測を行っていました(図1右)[1, 2]。今回の研究では、マルチチャネル電流計部分をプリント基板上に作製することにより計測器の小型化(100 g程度の重さ)と24chのマルチ測定を低価格(5万円以下)で実現しました。次に、カドミウム化合物の検出に当たりグラフェン電界効果トランジスタ(FET)を作製し、グラフェンFET上にカドミウム化合物を捕捉可能なキレート剤を修飾することによりグラフェンを利用したカドミウムセンサを作製しました。キレート剤としてterpyridineを用いた場合のカドミウム化合物検出の結果を図2に示します。50 ?M以上の塩化カドミウム溶液の導入に対し、鋭敏に応答し、5分以内での塩化カドミウムの検出に成功しました。更に、複数のキレート剤を修飾しグラフェンセンサアレイを作製し、3種類のカドミウム化合物の同定試験を行ったところ、カドミウム化合物に対応したセンサ応答の違いが観察されました(図3)。これにより、作製したセンサアレイを用いることにより、水中のカドミウム化合物の同定が可能であると考えられます。

今後の展開
 本研究で得られた結果は、事故等で水中に漏出したカドミウム化合物の早期検出への有用なツールになりえることを示しています。更に、水中でのカドミウム化合物の同定が可能であることから、漏出したカドミウム化合物の種類をいち早く評価可能なセンサ開発が可能になると考えています。また、他のキレート剤を用いることにより他の重金属化合物へも検出対象を広げ、水中の重金属汚染の早期発見が可能なセンサデバイスが実現できると考えています。
 今後、重金属の検出や、グラフェンセンサのマルチチャネル計測を実現したい企業様や研究者様との共同研究関係を構築し、社会実装に向けて研究を推進していきたいです。

参考文献
[1] Y. Takagiri, T. Ikuta and K. Maehashi, ACS Omega (2020), 5, 1, 877
[2] T. Yoshii, I. Takayama, Y. Fukutani, T. Ikuta, K. Maehashi and M. Yohda, ANAL. SCI. (2022), 38, 241

図1 本研究で作製したグラフェンセンサとセンサの電流計測システム(左)、従来の測定系(右)。従来は、大型かつ高価な測定機器により測定を行っていました。本研究では、小型かつ多チャンネルでのセンシングを可能にするための回路設計を行い、小型計測機器の作製をしました(左図電流読み取り回路)。これにより、持ち運び可能なサイズ(100 g程度)で、グラフェンセンサ部分にある24 chのセンサを同時計測可能な測定系が実現できます。
図2 キレート剤としてTerpyridine修飾したグラフェンセンサとセンサの電流計測システムを用いた塩化カドミウム検出の結果(4 ch同時測定)。矢印で示している時間に表記している濃度になるように塩化カドミウム溶液を導入しています。塩化カドミウム濃度が50 µM以降で明瞭な変化が観察され、電流値変化から5分以内に濃度同定が可能な結果となっています。
図3 分子未修飾グラフェン(pristine)とトリエチレンテトラミン六酢酸(TTHA)とterpyridineを修飾したグラフェンセンサ(3×3 ch)を用いたカドミウム化合物検出。それぞれのカドミウム化合物に対してセンサ応答が異なっているため、複数のグラフェンセンサを検出に用いることによりカドミウム化合物の同定が可能になります。

参考情報
◆2022年10月3日本学プレスリリース
 電子デバイスを利用した溶液中の生体由来分子検出の新手法~デバイ遮蔽の制約を受けない分子検出
 /outline/disclosure/pressrelease/2022/20221003_01.html

◆2021年9月9日本学プレスリリース
 グラフェン上での化学反応を基軸とした新奇検出原理で電気的な超微量化学物質検出の実証に成功
 /outline/disclosure/pressrelease/2021/20210909_01.html

◆2021年8月6日本学プレスリリース
 金属錯体とグラフェンを用いたセンサにより極微量二酸化窒素の定量検出に成功
 /outline/disclosure/pressrelease/2021/20210806_01.html

◆研究に関する問い合わせ◆
bet36体育在线_bet36体育投注-官网网站@大学院工学研究院
先端物理工学部門 助教
生田 昂(いくた たかし)
TEL/FAX:042-388-7221
E-mail:ikuta(ここに@を入れてください)go.jskrtf.com

関連リンク(別ウィンドウで開きます)

?

bet36体育在线_bet36体育投注-官网网站@